間取りの打ち合わせは、家族の役割分担を明らかにする

「洗濯物は、どこに干しますか」

間取りの打ち合わせでそう聞かれたとき、家族の中の誰が答えるだろう。


「買い物から帰ったら、まずどこへ行きますか」
「子どもの着替えは、誰がどこにしまいますか」
「ゴミをまとめて、外へ出すのは誰ですか」


家について話しているはずなのに、気づけば私たちは、誰が家族の生活を回しているのかを明らかにしている

家事動線の中心には、いつも誰がいるのか

キッチンの横にランドリールームがあり、その先にファミリークローゼットがある。
料理をしながら洗濯機を回し、乾いた服をそのまま収納できる。
無駄な移動のない、見事な家事動線だ。

私も間取り図でそんな動線を見つけると、つい「これは便利そう」と思う。

けれど、よく考えてみる。

その動線を、一日に何度も歩くことになっているのは誰だろう。
そこに想定されているのは、ご飯を作りながら洗濯機を回し、子どもの着替えをしまい、洗剤の残量まで把握している一人の人ではないだろうか。
家事を楽にするためにつくった動線が、家事を分けるためのものではなく、一人の人がより効率よく働くためのものになっていることがある。

これは間取りが悪いわけではない。
今の家族の役割分担が、そのまま図面に写っているだけだ。

間取りには「やる人」しか現れない

「洗濯物はどこに干しますか」と聞かれて、いつも洗濯をする人が答える。
「ゴミ箱はどこに置きますか」と聞かれて、いつもゴミを集める人が答える。
「子どもの学校用品はどこに収納しますか」と聞かれて、毎朝その準備を手伝う人が答える。

家事をしている人には、その質問の意味がすぐに分かる。

干す場所だけではない。

洗濯物を集める場所があり、洗う場所があり、干す場所があり、畳む場所があり、それぞれの収納へ戻すところまでが洗濯だと知っているからだ。

一方で、普段その家事をしていなければ、どこに何があると困るのかさえ分からない。

悪気があるわけではない。

見えている暮らしの範囲が違うのだと思う。
だから間取りの打ち合わせでは、ときどき片方だけが驚くほど具体的になる。


ここにコンセントがほしい。
ここには一時置きできる棚が必要。


この扉は、開く向きが反対のほうがいい。


それは細かいこだわりではない。
毎日の小さな不便を、何度も引き受けてきた人の記憶なのだ。

家を建てたら、家族は変わるのか

新しい家が完成したら、自然と片づけるようになる。
収納場所さえ決めれば、家族みんなが元に戻してくれる。
広いキッチンになれば、今まで料理をしなかった人も料理を始めるかもしれない。
家づくりをしていると、私たちは少しだけ未来の家族に期待してしまう。
けれど、新築したからといって、人間まで自動でアップデートされるわけではない。


脱いだ服は脱いだ場所にあるかもしれない。
郵便物は、とりあえず置かれるかもしれない。

「これ、どこにしまうの」と、収納を決めた本人に聞く人もいるかもしれない。(笑)

間取りは暮らしを助けてくれる。

けれど、家族の役割まで勝手に変えてはくれない。
だからこそ、図面を見ながら一度立ち止まってみてもいい。
この動線を歩くのは誰なのか。
買い物から帰ったあと、荷物を片づけるのは誰なのか。
子どもが泥だらけで帰ってきたとき、着替えさせるのは誰なのか。
十年後も、その人一人が担当することになっていていいのか。

「家事がしやすい」の主語を考える

家事動線の短い家は、とても便利だ。
忙しい毎日の中で、数歩でも移動が減ることには、ちゃんと意味がある。
ただ、「家事がしやすい家ですね」と言う前に、その言葉の主語を考えてみたい。

誰にとって、家事がしやすいのか

一人がすべてをこなしやすい家なのか。

家族の誰もが、必要なものの場所を理解できる家なのか。

それとも、自然と何人かで分担できる家なのか。

たとえば、家族全員が使う収納を、誰でも出し入れしやすい場所につくる。
帰宅後の荷物を、それぞれが自分で片づけられる場所をつくる。
洗濯物を一人が各部屋へ配るのではなく、それぞれが取りに来られる仕組みにする。
間取りだけで家事を完全に平等にすることはできない。

それでも、誰か一人が動き続けなくても暮らせる形を考えることはできる。

家族のこれからを、図面の上で決め直す

間取りの打ち合わせは、理想の暮らしを描く時間だと思っていた。
明るいリビングがほしい。
家族の顔が見えるキッチンがいい。
洗濯が一か所で完結するようにしたい。
そうした希望の一つひとつをたどっていくと、その家族がこれまでどんなふうに暮らしてきたのかが見えてくる。
いつも誰が先に起きるのか。

誰が家族の持ち物を把握しているのか。
誰が散らかったものを元に戻しているのか。
間取りの打ち合わせとは、今まで誰が何をしてきたのかを白状し、これから誰が何をするのかを家族で決め直す時間なのかもしれない。


家事をしやすい家だけでなく、家事を一人にしない家を考える。
その話し合いまでできたとき、間取りはようやく、家族全員のものになる。

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