「家賃がもったいない」のその先で
「家賃を払い続けるくらいなら、家を建てたほうがいい」
この言葉を聞くと、今住んでいる部屋の見え方が、少し変わります。昨日までは、仕事から帰ってくつろげる場所だったのに、今日は、毎月お金を失っている場所のように思えてくる。
家の話をしていたはずなのに、いつの間にか、自分のお金の使い方や、人生の進め方まで評価された気がする。住まいを選ぶときの迷いには、こういう、見積書に載らないものも混ざっています。
賃貸には、選び直しやすいという良さがあります。
仕事が変わったら、通いやすい場所へ引っ越せる。家族の人数が変わったら、広さを見直せる。家計に合わせて、もう少し家賃の低い住まいを探すこともできる。引っ越し代も物件探しの手間も必要ですが、自宅の売却を待たずに生活を動かせることには、確かな価値があります。
建物の大きな修繕を基本的に貸主に任せられることも、暮らしの負担を軽くします。これから何が起きるか分からない時期に、住まいに大きなお金を固定しない。その判断が助けになる人もいるでしょう。
ただ、家賃を何年払っても、その部屋の所有権は自分のものになりません。借りて住む限り支払いは続き、間取りや設備を変えるにも制約があります。「あと少し収納があれば」と思いながら、家具の置き方で何とかする。そうした工夫が、ずっと必要になることもあります。
だからといって、これまで払った家賃が全部無駄だったとは、なかなか思えません。
その部屋で眠れたこと。食事ができたこと。安心して帰れる場所があったこと。私たちは毎月、そういう時間のためにもお金を払ってきました。賃貸を選び、手元に残したお金を貯蓄に回すことだってできます。住宅を所有しないことと、何も残せないことは、別の話です。
では、家を建てると、何が変わるのでしょうか。
土地と建物を所有できることは、大きな違いです。将来も住み続けるほか、状況によっては売却や貸し出し、家族への引き継ぎも考えられる。住宅ローンを完済すれば、月々の返済もなくなります。長く暮らす場所を持つことが、将来への備えになる場合もあります。
毎日の生活に、手を入れやすくなることも魅力です。
例えば、洗濯物を抱えて廊下を歩き、ドアを開けるためにいったんかごを下ろす。大したことではないけれど、それを何年も繰り返している。家を建てるときには、そんな動きを間取りから見直せます。自分たちにとって使いやすい住まいを考え、暮らしながら必要な手入れや変更をしていける。
「資産」という言葉を聞くと、つい、将来いくらで売れるかを考えます。でも、今日の暮らしが少し楽になることも、家を持つ理由として十分に具体的です。
もちろん、持ち家にも都合の悪いところはあります。建築費やローンの利息、諸費用に加えて、税金や保険料、修繕費がかかります。給湯器が壊れたとき、賃貸では貸主や管理会社に相談できる場合がありますが、自分の家なら修理の手配と費用を考えるのは自分です。返済が終わっても、維持するためのお金は必要です。
そして、自分の資産になることと、払った金額以上で売れることも、別の話です。立地や建物の状態、地域の需要によっては、希望する価格で売れません。住み替えたい時期に買い手が見つかるとも限らず、ローンが残っていれば、売却代金から残債や費用を差し引いて考える必要があります。
「家賃と同じくらいの返済額」という説明には、心が動きます。でも、その返済額の横に税金や修繕への備えを置いたとき、毎日の生活はどうなるでしょう。教育費を準備できるか。収入が減ったときに対応できるか。たまには家族で出かける余裕も残せるか。
住まいに払うお金は、住まい以外に使えるお金も決めていきます。
家を持っている人を見ると、人生がひとつ先に進んでいるように感じることがあります。けれど、その感覚だけでは、自分の家の広さも、返済額も決められません。
この地域で長く暮らしたいのか。今の住まいのどこを変えたいのか。そのために、どのくらいの費用や手間を引き受けられるのか。
そこまで考えてみると、家を建てたい理由が、自分の言葉になっていきます。
賃貸を続けるにも、家を建てるにも、日々の支払いと暮らしがあります。「自分の資産になる」という言葉に惹かれたら、その家で過ごす自分たちの生活まで、思い描いてみる。
家が手に入った後の毎日を、ちゃんと好きでいられそうか。
そこを確かめることから、家づくりを始めてもいいのだと思います。
